平成10年1月15日
WOCE DPC-11 出席報告
海洋情報課 道田 豊
1 はじめに
世界海洋循環実験(
World Ocean Circulation Experiment:WOCE)は、1990年から本格的に開始され、世界の海洋に多数の観測線を設定し、各国が分担して非常に高精度の観測を行ったり、漂流ブイや係留系を展開して流れのデータを取得するなど、主として海洋物理の分野で総合的かつ組織的な観測が行われてきた。WOCEの集中観測期間は1997年で終了し、これからは取得したデータの統合解析(シンセシス)やモデル研究に重点が移ることになる。WOCEは、データ管理の問題についてプロジェクトの計画段階から本格的に取り上げた画期的な研究計画であるといえる。計画の開始当初からデータ管理委員会(Data Management Committee:DMC)が設置され、取得されるデータの流通、保管を監視してきた。プロジェクトが進むにつれて、データポリシーが浸透し、さまざまな問題を抱えつつもデータの流通という点では順調になってきた。そこでDMCはデータプロダクツ委員会(Data Products Committee)と名称を変更して、データ流通の監視ばかりでなく、収集されたデータをとりまとめて研究に使いやすいデータセットを作成することも任務となった。
DMC/DPCには、日本から海上保安庁水路部の谷伸氏が1992年から1997年まで委員として参加しており、精力的に活動を行ってきた。1997年秋に米国コロラド州ボールダーで開催されたWOCE科学委員会において、1997年末で任期満了となる谷氏に代わって、海上保安庁水路部日本海洋データセンターの道田がDPCの委員となることが勧告され、これに従って1997年末に正式に委員の交代が行われた。
委員の交代後初めての
DPC会合が1998年1月にホノルルにおいて開催され、道田が委員として出席した。以下、今回の会議の概要等について報告する。
2
DPC-11(1)日 時
1998年1月5日(月)〜1月9日(金)(2)場 所 米国ハワイ州立大学 海洋科学科
(3)出席者 ●
DPCメンバーEric Lindstrom(米、議長)
Jens Schroeter(独、アルフレッドウェーゲナー研究所)
Mark Warner(米国、ワシントン大学)
Nathaniel Bindoff(豪、南極研究所)
Penny Holliday(英、WOCE-IPO)
Victor Zlotnicki(米、ジェット推進研究所)
Yutaka Michida(日、日本海洋データセンター)
●
DAC/SAC関係者(DAC:Data Assembly Center SAC:Special Analysis Center)
Bernie Kilonsky(米、ハワイ大学、水位DAC)
Bert Thompson(米、デラウェア大学、WOCE情報局)
Christine Wooding(米、ウッヅホール研究所、フロートDAC)
Doug Hamilton(米、米国データセンター)
David Legler(米、フロリダ州立大学、海上気象DAC)
Dale Pillsbury(米、オレゴン州立大学、係留系DAC)
Hank Frey(米、米国データセンター所長)
Jim Crease(米、デラウェア大学、WOCE情報局)
Jim Swift(米、スクリップス研究所、海洋観測DAC)
Kai Jancke(独、海洋観測SAC)
Katherine Bouton(米、デラウェア大学、WOCE情報局)
Lesley Rickards(英、英国データセンター、水位DAC)
Mayra Pazos(米、NOAA/AOML、ドリフターDAC)
Mindy Berger(米、オレゴン州立大学、係留系DAC)
Mrie-Claire Fabri(仏、IFREMER、表層水温DAC)
Mark Merrifield(米、ハワイ大学、水位DAC)
Pat Caldwell(米、ハワイ大学、ADCP-DAC)
Rick Bailey(豪、CSIRO、表層水温)
Robert Keeley(加、MEDS、ドリフター)
Robert Molinari(米、NOAA/AOML、水温SAC)
Steve Diggs(米、スクリップス研究所、海洋観測DAC)
●その他
ハワイ大学の関係者などがオブザーバーとして参加
(4)アジェンダ
1月5日(月)
WOCEデータセットを解析した結果による科学的成果に関するセ ミナー1月6日(火) 作成予定の
CD-ROMのデモとレビュー1月7日(水)
WOCE科学総会(1998年5月、ハリファックス、カナダ)に向けて 活動方針1月8日(木) データの集積状況、アクションアイテムのレビュー
1月9日(金) 総括
3 科学成果に関するセミナー
現地時間の1月5日午前9時ころホノルルの空港に到着したため、科学セミナーは3番目の講演から参加することができた。いずれの講演においても、今回発表する研究成果は
WOCEのフィールドプログラムの結果に負うところが大きいこと、WOCEにおいては、理想的とまではいかないもののデータ流通にかなり配慮されているので研究成果があがっていることが強調された。研究者側からすれば、現時点で収集できていないWOCEデータの発掘に全力を上げるべきであること、メタデータの充実を図るべきであること、関連していわゆるGray Information(マイナーな論文誌や報告書のたぐい:我が国の科学技術庁の研究報告書などが典型的な例)を発掘する仕組みが必要であること、といった議論がなされた。講演者の顔ぶれをみると、観測研究を主体とする
Ocean Going Researcherではない人がほとんどであったため、上記のような議論になったという面もあると思われる。自ら観測データを取得することをしていない研究者にすれば、できるだけ早期にできるだけ質のよいデータが公開されることが望ましい。一方、水路部や気象庁の研究者のように、オペレーショナルに近い形で観測データを取りつつ解析を進めている者の立場からすれば、あまりタイトなスケジュールでデータ公開を求められても、現実的には処理が追いつかなかったり、消化不良のまま公開するといった事態が大いにありうるため、抵抗したくなるのも理解できる。
4 データセットをとりまとめた
CD-ROM作成される予定の
WOCEデータセットCD-ROMは11種15枚であり、5月にハリファックスで開催されるWOCEコンファレンスで公開されることになる。これらのCD-ROMは、各DAC/SACによってそれぞれ作成中である。今回の会議では、現在作成中のCD-ROMの内容が紹介され、構成その他について議論された。利用者の立場からすれば、各
CD-ROMが共通の構造を持っていることが望ましく、極力共通仕様にする方向で議論されたが、前回のDPC10での結論のとおり、仕様を共通にすることにこだわるよりは早期のデータ公開に主眼を置くべきとの意見が大勢をしめた。すなわち、細かいことにこだわって5月の刊行が遅れるような事態は避けることが確認された。作成される
CD-ROMの種類とその作成機関は次の通り。・全般情報−
DIU(デラウェア大学)・
CTD等海洋観測(WHP)−WHPO(スクリップス海洋研究所)・解析
WHP−WHP-SAC(独)・表層水温−
MEDS(カナダ)、NODC(米)、IFREMER(仏)、CSIRO(豪)・中層フロート−ウッヅホール海洋研究所
・表層海流(漂流ブイ)−
MEDS(カナダ)、AOML(米)・係留系−オレゴン州立大学(米)
・
ADCP−NODC/ハワイ大学(米)、JODC・水位−
BODC(英)、ハワイ大学(米)・海上気象(3枚)−フロリダ州立大学(米)
・衛星データ(3枚)−
JPL(米)いずれも
html形式で記述され、Netscape等のブラウザによってウェッブページと同様のイメージで参照することができる。収録されるデータ・情報の量は、CD-ROM15枚で6Gbyteほどになる。全部の
CD-ROMについて、完全に共通の構造にすることはしないものの、基本的な構造や収録事項のついてはいくつかの共通仕様が定められた。例えば、・ブラウザによらずともデータにアクセスできるようにすること。そのため全体像がわかるよう、プレーンテキストの
'README'ファイルがあること。・ブラウザ向けの最初のファイルは
'WELCOME.HTM'とすること。・イントロダクションのページには、
DACの紹介を含み、略語はフルスペルで記述すること。・データソースの概要あるいはそれに対する謝辞を含むこと。
・各
CD-ROMは、ソフトウェアに関して自己完結していること(特殊なソフトの使用を避け、使う場合はCD-ROMに収録すること)。・データ提出に関するインストラクションやデータの読みとりプログラムは必須ではないが、収録してもよいこと。
などが定められた。
JODCが米国NODC及びハワイ大学と共同で作成中のADCPデータを収録したCD-ROMは、既に今の段階で、途上国のユーザー等の利便も考慮して、html文書だけでなくASCIIのテキストでもデータを収録しており、他のデータセットにない特徴となっている。
各担当機関は、所要の修正を加えたうえで、最終的な
CD-ROM原版をDIU(Data Information Unit)とNODCに送付することとされた。米国NODCは、これらのCD-ROMを複製する予算をすでに確保しており、必要部数を作成することになる。
5 データ流通のモニター
各
DACから、データ流通の現状について報告があり、滞っているものについてはその改善策について意見交換がなされた。さまざまあった議論のうち、我が国に関連する部分を列挙すると、以下の通り。・
WHPは、リピートラインの集積状況があまりよくない。水路部の東経144度線に沿った観測などがリピートラインとして登録されているがデータが収集されていない。これについては、実態を調査する必要がある。・
SVP(表層海流観測計画)では、日本のドリフターデータはおおむねすべてが遅延モードで収集されている。ただし、最近データ提出が停滞ぎみであり、1995年以降のデータについて収集を加速する必要がある。・係留系は、
PCM5のデータが提出されていない。・フロートは、日本からのデータ提出がなく、
PIの反応も芳しくないので、JODCがPIと連絡を取ってみることとなった。・
ADCPについては、日本のWHPラインのデータがハワイ大学に提出されていない。提出時期等について早急に調査する必要がある。
6 その他の議論
(1)
WOCEデータの保管(archive)WOCEデータの当面の保管を米国NODCが担当することになっており、NODC所長からその実施計画が示された。今回のDPC11で議論になっているCD-ROMを初期保管データセットとし、それを手始めに各DACと協力しながらarchiveを進めるという手順である。NODCでは、すでに内部にDoug Hamilton をヘッドとする'WOCE Data Team'を発足させており、DIU/DAC/SACとの協力体制の維持、NODC Archiveへの移管、Searchable DBの開発といった課題について検討を開始している。NODCにおけるWOCEデータの保管は、NODCの新しいフォーマット(P3)によって行われる予定。
我々としては、
NODCにおけるWOCE Data Archiveと、WDC(World Data Center)あるいはRNODC(Responsible National Oceanographic Data Center)との関係が気になるところである。関係者に質したところ、次のような考え方が示された。WOCEのDACは研究機関も多く、WOCEのプロジェクトが終了したらDACを維持する予算の確保が困難であるため、WOCEデータセットとしてまとまった形での当面の保管をNODCが担当することが適当であるという議論が行われ、その結果、NODCは予算を確保した。より長い時間スケールでの最終保管は、当然WDCやRNODCといった場所で行われる。例えばドリフターは、最終的にはカナダのMEDSに移管されることとなる。
(2)
WOCEアトラス米国スクリップス海洋研究所の
L.D. Talleyを中心として、WHPのデータをまとめて断面図を主体としたアトラスを刊行しようという計画がある。考え方としては、GEOSECSの改訂版であり、紙ベースの図面集である。Talleyのグループは既に動き始めており、予算も確保したらしい。DPCで縷々検討し刊行予定となっているCD-ROM(特に次のバージョン)の内容と、かなり競合する内容である。従って、Talleyらの動きとよく連携することとなった。(3)
CLIVAR(Climate Variability Programme)への移行WOCEはそろそろ最終局面となっており、今後は現在計画が進行中のCLIVARへスムーズに移行することが必要である。CLIVARの計画の中で「データ管理」がどのように扱われようとしているか、簡単な紹介があり、これについて意見交換した。
CLIVARのデータ管理システムに関するポンチ絵が示されたが、この中で既存のIODE関連の機能や機関の位置づけが明確になっておらず、この点についてMEDSのR. Keeleyが強い調子で意見を述べた。WOCEの計画当初は、IODEが旧来のシステムで新たな研究プロジェクトにおけるデータ管理の要請に答えきれないという面があり、その結果現在のようなWOCEのデータ管理システムが作り上げられた。IODEはこの10年間に大きく変貌し、CLIVARにおいても少なくとも海洋データの管理については大いに貢献しうると、IODE関係者は見ているだけに、我々の目からみてCLIVARの案は不満である。WOCEにおいても、結局archiveの部分はNODCやWDC/RNODCといったIODEシステムに頼らざるを得ない状況であるため、CLIVARのデータ管理においても、当然IGOSSやIODEに言及されるべきであるが、そのようになっていない。CLIVARの海洋データ管理についてIODEコミュニティが何らかの貢献を期待されているならば、各国NODCの予算を含めた体制整備を後押しするため、CLIVAR実行計画にIODEに関する何らかの記述が必要である、という主張をIODEに関連する出席者が行ったところ、大方の理解が得られた。
7 今後の
DPCの活動最終日の全体会議終了後、
DPCの正規のメンバーだけによるofficers meetingが行われた。出席者は、Eric Lindstrom、Jens Schroeter、Mark Warner、Nathaniel Bindoff、Yutaka Michida、
David Legler。Lindstromの議長職は今回会合までとなる。次期議長は、豪のBindoffが務め、Leglerがサポートすることになる。全体会合での議論を踏まえ、次回会合DPC12は、1999年3月または4月に、マイアミかタラハシー、あるいは英国データセンター(Berkenhead−リバプール郊外)で開催することを確認した。
次回会合においては、1
)Ver2 CD-ROM 2)CLIVARへの移行問題 3)WDC等へのデータ移管 等を議論する予定となった。その中で、JODCの活動概要についてオンラインサービスを中心にして紹介することが求められた。
8
GTSPP(Global Temperature and Salinity Pilot Programme)関連事項今回の会議には、
GTSPPの関係者が多数出席していたことから、GTSPPの非公式会合が行われ、これに出席した。出席者は、R. Keeley、B.Molinari、R.Bailey、D.Hamiltom、Marie-Clair Fabri。我が方に関係する議論は以下の通り。・
GTSPPとNEAR-GOOSの連携を強化したい。リアルタイムについては、品質管理、CMD(Continuous Managed Data Base)について気象庁と協力していくことについて、長谷川氏と話がついている。遅延モードについては、JODCとNODCの協力関係を強化する。・品質管理、メタデータについては、
MIRCの協力も得たい。GTSPPとして永田先生に協力要請の書簡を出す。・XCTDやプロファイルフロートのデータにも手を伸ばす予定。日本の現状について、いずれ教えてほしい。
9 アクションアイテム
(1)
WOCE Data Tracking・日本の
WOCEラインのADCPデータの現状を調査し、出せるものは早急にハワイ大 学に送付・中層フロートのデータを
DACに提出するよう、日本のPIs(海洋研:平先生、気象 研:四竈室長)に働きかける・
PCM5のデータをDACに提出するよう、今脇先生に働きかける・
WHP関係のデータのうち未提出のものについて現状を調査する。場合によっては科 学技術庁あたりから勧告文書の発出も検討(2)
ADCP-DAC・
P2、P8は可能であればCD-ROMに盛り込むよう、PIに提出を依頼・
JODCのオンラインページの内容チェック。(WOCEのフラッグが立っているべきも のに立っていない、カントリーコードが変、といった苦情あり)・
JODCにおけるADCPデータフォーマットを再検討することになっているが、その結 果は? 高分解能データは全部ハワイ大学に任せることとするか?・今回刊行する
CD-ROMは2月20日が締め切り。それまで、ハワイ大学のCaldwell と連絡を密に(3)
DPC一般・
1998年5月のWOCEコンファレンス(Halifax)には、出席できるよう努力・
DPC12で、JODC Web Siteのガイドツアー(DPCメンバーとして道田、またはDAC としてJODCの誰かが会議で紹介)をすることになった。内容の充実(特に英語ペー ジ)、誤りの修正に努める(4)
GTSPP・
JODCにおいて1mピッチのXBTデータを扱いうるか(予定があるか)・日加の水温データ交換の現状調査
・「しらせ」の
XBTデータの現状・
DMDB/NEAR-GOOSで、米国NODCと協力・品質管理、メタデータについて
MIRCの参加